「あなたの心に…」

 

第2部

 

「アスカの恋 激闘編」

 

 

 私、惣流・アスカ・ラングレー。14歳。中2。ドイツからの帰国子女よ。

 この街で住むことになったマンションで、私は幽霊娘と友達になっちゃったのよね。

 その娘の名前は、霧島マナ。私の家の前の住人だったの。

 交通事故で死んじゃったんだけど、
 幼馴染で大好きだった隣の碇シンジのことが気になって、成仏してないの。

 シンジはマナの死にショックを受けて、ずっと落ち込んでたんだけど、
 この私の力でかなり明るくなったのよ。

 だって、私は学年TOPの美貌と学力を誇ってるんだもん!

 ところが…、自分で言うのもちょっとアレなんだけど、
 私は自分の恋心にまったく気付かずに、シンジに他の組の美少女・綾波レイを紹介しちゃったのよ!

 そして仲良くなった二人を見て、
 初めてシンジのことを大好きだったことを自覚したの。

 はぁ…、なんて私はへっぽこなんだろ…。

 でも、あきらめない。

 絶対にシンジのことはあきらめない。

 ママもマナも、クラスの友人の洞木ヒカリも応援してくれているんだから、
 私、絶対にがんばるわ!

 

Act.25 雪が降った日に

 

 

 

 さっむ〜い!

「ね、幽霊って、寒さ感じないのよね」

「そうだよ」

「うっらやましい〜な!ブルルル。この中、学校まで歩くの?勘弁して欲しいわ」

「じゃ、休めば」

「はん!寒さくらいで休んでちゃ、私の顔を見に来る人たちに悪いじゃない」

「嘘つき。アスカ本人が誰かさんの顔を見たいんでしょ。
 あ、病気で休めば、シンジがお見舞いにきてくれるかも」

 なに!『美少女病欠お見舞い大作戦』?

 はぁ…。駄目よ。お見舞いにきてくれる時間より、

 教室でシンジの隣に座ってる時間の方が貴重よ!

 その意見具申は却下!

「行って来るわ。う〜、寒そう」

 窓の外の景色を見て、私は身震いして玄関に向かったわ。

「行ってきまっす!」

「はい、いってらっしゃい」

「がんばってね〜!シンジによろしく!」

 マナはあっけらかんと手を振ってる。

 マナのことはママも承知だから、玄関は2人…じゃなくて、1人と1霊で見送ってくれるの。

 

 私は登校中の空を見上げて、背中が震えたわ。

 陽射しがなく、黒い雲が薄く空を覆っている。

 雪が降りそう…。

 シンジへの報われない恋を癒してくれるような、優しい雪が…。

 

 そうなの…?

 私の心の傷は、生半可な量の雪では癒されないのね…。

 その日、天気予報が大きく外れた、未曾有の大雪がこの地を襲ったの。

 もちろん、緊急下校。車なんかは危ないから、通行禁止になったのよ。

 窓から見えるのは、吹雪。ただそれだけ。

 この状態で帰れると思う?

 近くの連中や面白好きな奴等は、ワイワイ言いながら帰ってったけど、
 半分以上の生徒がまだ残ってたわ。

 私はもちろん残ったわ。だって、遭難したくないもん。

 ま、それは冗談。いくらなんでも街中で遭難はしないでしょ。

 それにそんな状態なら、学校も下校させるわけないもの。

 残ってたのは、言うなれば成り行きってやつね。

 ヒカリがグズグズしてたから。

 家に帰ろうか、小学校へノゾミちゃんを迎えに行くか。

 まあ、この吹雪の中を移動するんだから、迷うのは当然だけどね。

「ヒカリ、アンタ小学校へ迎えに行きなさいよ」

「え、でも、ここからだとちょっと遠くなるし…」

「大丈夫。いいボディーガードがいるの。ちょっと、鈴原!」

「は?なんや?」

 間の抜けた顔をして、鈴原がこっちを向いた。

「アンタも妹が小学校にいるんでしょ。迎えに行きなさいよ」

「なんでや、アイツやったら勝手に一人で帰りよるで。ほっといたらええねん」

「アンタ、冷たいわねぇ。じゃヒカリだけが小学校に行くわけ?
 この吹雪の中をヒカリ一人でほっぽり出すつもり?」

「それでワシについて行けってのかいな?」

「そうよ!アンタ、それでも行かないって言うの?
 ヒカリ、コイツはこういうヤツよ。アンタのことなんかこれっぽっちも…」

「ほな行くで、いいんちょ」

 鈴原は鞄を引っさげて、真横に立っていた。

 何時の間にコイツ…。

「う、うん…」

 ヒカリが赤面しながら、鈴原の後ろに着いて行く。

 ふん!鈴原のヤツ、ヒカリの名前が出たとたんに、態度変えるんだから。

 はぁ…、結局は鈴原もヒカリのこと、好きなのかな。

 すると…二人はラブラブじゃないのさ!

 はん!

 

 羨ましい、な…。

 

 シンジも教室に残ってる。

 ただし、レイも横にいる。

 さすがの財閥も雪には勝てないみたいね。

 携帯電話で雪がおさまるまで、学校に残るように言ってきたらしい。

 シンジも一緒に残ってくれるって、ニコニコして私に教えてくれたわ。

 こんな無邪気で私を慕ってる娘を…裏切れないよね。

 だからって、何の用もないのに、私は教室に残ってる。

 残っても何もできない。

 自分が苦しむだけなのに。

 でも、ここにいたい。

 シンジと同じ空間にいたい。

 それだけだから、いいでしょ、レイ。

 お願い。

 何もしないから。

 好きだってことは言わないから、ね、許してね。

 

 はぁ…することがない。

 アンタたちはお喋りしてればいいけど、私は何もすることがないのよ。

 私は机に突っ伏して、ぼけっと彼氏彼女を眺めていたわ。

 少し喋って、微笑みあって、顔赤くして、黙って俯いて、また喋って…。

 くぅっ!

 なんで、私がこんな初々しいラブラブカップルを眺めてなきゃいけないのよ!

 もう…帰ろ…。虚しくなってきたわ。

 プルプル…。

 あ、レイの携帯だ。

「はい、わかりました。では…」

 電話を切って、学生鞄にしまうその仕草も優雅よね…。

 それから何かをシンジに話してる。あ、こっちに来た…。

「あの、通行禁止が解除になったそうですので、
 アスカもご一緒しませんか?」

「ご一緒って、アンタの車で?」

「はい」

「私はいいわ」

「え、でも…」

「歩いて帰りたいの。どうせお邪魔だし」

「アスカ。碇さんも乗せていくのですから、遠回りするわけでもないですし」

「いいって言ってんでしょ。ほっといてよ!」

 ガタッ!シンジが立ち上がった。ちょっと顔が紅潮してる。

「アスカ!どうしてそんなわかんないこと言うんだよ」

「いいじゃない!どうせ私は邪魔者なんだから。

 馬鹿シンジが一人で乗っていけばいいでしょ」

「わからず屋!アスカはただ意地悪してるだけじゃないか」

「うっさいわね!」

 初めて…。

 シンジがこんなに怒ったの。

 そっか、レイの親切を私が拒んだから…か。

 寂しい…、な。

「がたがた言わないでよ!帰る!」

 私は鞄を引っつかんで、教室を飛び出したわ。

 だって、涙を見られちゃうもん。

 シンジに怒られちゃったから…。

 私の我儘が恥ずかしかったから…。

 

 はは…、こんな靴で、雪の中歩けないよね、やっぱり。

 これは帰ってからちゃんとマッサージしないと、霜焼けになっちゃうわね。

 靴の中はもう冷たいを通り越してるわ。

 でも、長靴なんかないし、さ…。

 意地張らないで、レイに車で送ってもらえばよかったかな…。

 だって…だって…。

 もうあの二人のラブラブを今日は食べ過ぎよ。

 胸がむかついてくるわ。

 あ〜あ、相手がレイじゃなかったらな…。

 あの娘じゃなかったら…、他の娘だったら、
 どんなことをしてでも、シンジを自分のものにするのに…。

 ……。

 シンジ…。

 ……。

 マナの今の気持がわかるわ。

 大好きなのに、自分は幽霊になっちゃってる。

 その上、シンジに見られたら、またシンジが落ち込んじゃう。

 マナ。アンタも苦労するね。

 せっかく白羽の矢を立てた、この私は自爆してしまうし…。

 でも、マナはどうしてレイは駄目なんだろ?

 自分がシンジの彼女になれないんなら、シンジの幸福を祈るものなのに、
 どうして、レイじゃなく、私なんだろ?

 わかんないな…。

 だって、ホントにお似合いなんだもん、レイとシンジは。

 

 はぁ…。

 心も寒いけど…、身体はもっと寒いわっ!

 これって凍傷になるんじゃない?

 いや、もう歩けなくなって、私はこの道端で眠るように死んでしまうんだわ。

 そして、私の汚れない死体を目の前にして、シンジが言うの。

『アスカ…、君が死んで…はじめてわかったよ…。
 ……。
 君って本当に馬鹿だったんだね。
 だからあの時、綾波さんの車で送ってもらえばよかったんだよ。
 なんか、急に怒り出して、飛び出していくから、こんな目に遭うんだ。
 自業自得ってヤツだよ。
 あ、自分が悪いんだから、綾波さんのところに化けて出ないでよ。
 僕たち、とっても迷惑するからね』

 ……。
 ……。
 ……。

 何よ、これ!

 許さないわ!馬鹿シンジの癖に!

 私の妄想の中でまで、惚気を聞かされるとは思わなかったわ。

 ふん!化けて出てやる。一生祟ってやるんだから。取付いてやるんだから。

 ははは、アンタは一生恋なんかできなくしてやる。

 アンタを好きになる女が現れたら、全部邪魔してやるんだから。

 くっくっく…。

「アスカ、ヒキガエルの笑いはヤメなよって言ってるのに」

「ヒキ…、マナ!」

「はい、マナちゃんで〜す」

 いつの間にか、マナが私の背中にかぶさっている。

 う〜、全然重くないんだけど…何か苦しく感じてしまうのよね。

「ちょっと!歩きにくいから止めなさいよ!」

「うわ〜、足、びしょ濡れじゃない!早く帰ってお風呂入らないと!
 ママさん、ちゃんと準備してるよ」

「う〜ん、さすがはママね。私が歩いて帰ってくるってお見通しね」

「あ、それは私にもわかってたよ。アスカ、馬鹿だもん」

「ば、……、そうね、馬鹿だもんね、私」

「あれ?怒んないの?」

「私だって、素直に言葉を受け入れる時だってあるの」

「珍しい。アスカの素直バージョン!」

「アンタねえ…。まあ、いいわ。はぁ…。
 私は今、心も身体も凍えきってるのよ…」

 マナはふわふわと私の前に浮かぶと、にっこり笑ったわ。

「もうすぐ、いい事がおこるよ。
 とってもいい事。心も身体もあったかくなるから。
 お楽しみにね!」

 そう言い残して、マナは消えちゃった。

 いい事って、何?

 

 

 

Act.25 雪が降った日に  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第2部『アスカの恋 激闘編』が始まりました。第25話は『アスカ遭難!』編の前編になります。
八甲田山なみの展開にしようかと思いましたが、
さすがに町中でそれはなかろうと、プチ遭難(アスカの主観)にとどめました。